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Anton Schwardring
(1835ca in Prag)
19世紀ウィーン式ピアノの栄華
〜アントン•シュヴァルトリンク〜
1835年頃、当時オーストリア帝国の支配下にあったプラハで製作されたこの楽器の鍵盤中央部分に描かれているネームプレートには、製作家のシュヴァルトリンクの名前とともに、オーストリア帝国を支配していたハプスブルク家の紋章(双頭の鷲)を彷彿とさせる鷲の絵が描かれています。
またこの楽器を支える3本のピアノ足は、鷲足が象(かたど)られ、当時の栄華を今に伝えています。加えて、白鍵は真珠層を持つ貝で彩られ、黒鍵には金箔の下地に鼈甲がかぶせられている豪華絢爛たる様相、そしてピアノ作りの作りの中心であるウィーンの伝統を感じられる柔かさと東欧の香りが感じられる美しい音色が特徴の楽器です。
またこの楽器は、現代のピアノと異なり“ウィーン式アクション”と呼ばれる特別な打弦機構を備えています。それは“跳ね上げ式アクション”とも呼ばれ、打弦側(演奏者側)を向いて取り付けられている軽いハンマーを梃子の原理で跳ね上げ打弦するというシンプルな構造を持っていました。そのためタッチが軽く、音色は明快で華やか、きわめて繊細な指先の動きにも俊敏に反応し、さまざまなニュアンスを引き出すことが可能でした。
さらに、現代のピアノにはないユニークなペダルシステムを備えていることにも注目です。19世紀初頭におけるウィーンのピアノにはさまざまな音色効果を生み出すペダルがついていました。4本~6本のペダルを有し、鐘や太鼓の音が出る楽器なども珍しくはありませんでした。特に“アントン•シュヴァルトリンク”が持つ弦とハンマーの間に布が入り、幻想的な表現効果を生み出す「モデラート・ペダル」は演奏にいっそうの彩りを添えてくれます。
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